うつ病患者が仕事で復職失敗するまでのストーリー

弱っている人へ
スポンサーリンク

雨の中しずかにたたずむ綺麗な青色のアジサイ

うつ病患者の復職が失敗しやすいのは昨今有名になってきましたね。実に50%の人々が復職に失敗していると聞いたらあなたはビックリするでしょう。今回はどんなふうに復職を失敗しるのかをストーリー仕立ての小説にしてみたので是非読んでみてください。

ここから何を変えればよかったのかを一緒に考えてくださいね。では、はじまりはじまり。

短編小説「復職失敗」作者:モン介

この小説にでてくる登場人物は実在の人物とは何ら関係ありません。また、実話でもないフィクションです。その点、ご承知おきください。

部下のうつ病は俺のせいだ。

自分の部下がうつになり休職した。真面目で明るいあいつの変調に気付けなかった俺は最悪だと思う。あいつのためではなく俺のためにもあいつが元に戻るまで全力でサポートしてやろう。

そう心に誓い部下であるアツシの復職を心待ちにしているトオルであった。

アツシが休職したとき、あいつの自宅までいって話をきいた。アツシは「すみません」と泣きながら謝ることしかしなかった。その姿をみて俺は自分の胸が苦しくなるのを感じていた。本音をいうと「お前のせいだ」とののしられるものだと思っていたからだ。

だが、実際はどうだろうか。玄関をあけ、私の顔を見た瞬間から謝罪の言葉がきこえていた。「今回は、本当にすいませんでした」驚きのあまり私は言葉をうしなっていた。自分の器の小ささを恥じた。

それから中で今後の話をした。アツシは実家のある地方から東京にでてきて一人暮らしをしていたため休職したら実家に戻ることにしていた。ご飯の支度やなど家事全般も自分一人でできる状態じゃなかったからだ。何より一人にして最悪の結果になってはだれも責任をとれない。

週に一度、メールでやりとりをして現状を教えてもらうことにした。それ以外は、主治医の判断に任せる。

「お前が戻ってくることを、ちゃんとまっているからな。」そう告げて、家を後にした。

休職期間中のアツシ

アツシはちゃんと毎週連絡をくれた。主治医と話した内容、日常なにをしているか。あまり文章は長くない。短く端的に内容を連絡してくれた。おそらく長文をつくる気力もないのだろう。返信もあまり早くないが次の日には連絡をくれていた。

1か月もたつと文章は少し長くなった。無感情の事務的な連絡が、どことなく感情の含む文章になってきた。どうやら回復してきたのかなと勝手に思いながら、文章にもそういうのが含まれるものだなと意外な発見に驚いていた。とはいえ、くる連絡にはいつも「すいません」が多用していた。そんなに気にせずゆっくり休めよと思ったが言っても「すいません」は減らなかった。

休職し2か月がたつと調子のいい日が増えてきたと連絡がきた。クスリもカラダにあったようで外でウォーキングとかはできるとのこと。この状態が2週間続けば復職してもいいのではないかと主治医がいっていると書いてあった。

うちの会社は3か月おきに休職の延長か復職かを総務部より打診される。そのことをアツシにつたえ3か月目に復職できるよう調整することを約束した。その後アツシの体調は安定したようにみえ、主治医からOKも出たことにより復職することになる。

3か月の休職から部下が復職

待ちに待った大事な部下の復職。失敗しないようにイロイロ調べおいた。沢山の情報の中からもっとも注意するのは部下への業務調整だと知った。復職は難しく体調は崩れやすい。特に復職したてや、業務負荷をあげる時などはストレスが強くなり体調を崩す場合があるらしい。

自分の立場ならその調整はできる。絶対に失敗はさせないと固く心に誓った。

休職開け、復職一日目。アツシは朝礼で今日から復職すること、課の人間に休職して申し訳なかったこと、今後、戦力になれるよう頑張ることを告げた。礼儀正しく真面目なアツシらしい挨拶で課の人間もしっかり支えてやろうとココロの中で思った。

まずは一日会社で過ごしてもらうことにして仕事は何も与えないことにした。好きなことを3日間していいと告げ、俺は自分の仕事をしていた。もちろん一日数回はアツシの様子を自分の目で確認し、自分が席を外した時はアツシの2こ上のジュンペイに様子を見てもらうことにしていた。

アツシは順調に会社に出社して3日たっても体調が悪化することはなかったためルーティンワークから始めさせていくことにした。

ルーティンワークをこなして1か月

ルーティンワークをこなして1週間。アツシは順調に仕事をこなしていっていた。もともと真面目で丁寧な仕事をするアツシはルーティンワークでも丁寧な仕事をしていた。

ミスも少なく数字入力の際は二回チェックは必ずするなどして間違うことがほぼない。処理時間は多少かかるものの正確さを優先させているならしょうがない範囲のものである。業務処理的にいえば元の業務に戻ってもいいように見えるが、やはり顔色はわるい感じがする。特に夕方ごろには疲れが表情にでてきている。

あまり焦っても問題が出ると思い、ルーティンワークのみの業務に従事してもらった。念には念をということで客観的に見て問題がないといえるようになるようにルーティンワークは長めにやってもらうことにした結果、1か月くらいルーティンワークをしてもらうことになった。結果的にアツシは調子の悪そうな日もあるもののルーティンワークを難なくこなしているようにみえた。

通常業務にして1週間

1か月ルーティンワークをこなしたんだから、そこそこ大丈夫だろうという考えになり、復職して2か月目に入るところで通常業務に戻ってもらった。とはいうものの、みんなと同じにして大丈夫だろうか、、、とふと思うトオル。

「う~ん、やっぱダメだよな。」とやっぱり周りのみんなと同じ強度ではじめるとさすがに体調を崩すだろうと思い業務制限はすることにした。

通常業務に戻ってもらってから1日が過ぎた日。トオルは平静を装っていたが内心ドキドキが止まらなかった。アツシは本当に大丈夫だろうか?俺が席をはずしている間に体調を崩さないだろうか。そればっかりが頭の中をかけめぐる。

自分の仕事が手につかずほかの社員に怒られるほどである。その反面アツシは休むことなく通常業務をこなしていた。本人に調子を聞いてみても「はい。大丈夫です。心配していただき、ありがとうございます」と答えるばかり。自分の心配しすぎだったんだなとトオルは自分のデスクで頭をポリポリかいていた。

1週間もすると自分が心配性なだけだと思うようになった。なぜなら、アツシは淡々と仕事をこなしていたからだ。顔色は悪い。でも、話しかけても「大丈夫です」と答えているし産業医との面談の際も「問題ない」と答えている。

「なんだかなぁ、、、、俺はまだまだ未熟なんだなぁ、、、アツシより俺の業務が進んでないじゃないか、、、」とつぶやくトオルであった。

朝の出社時間が遅くなる

アツシは順調に業務を進めているように見えた。ほかの社員より難易度の低い仕事、かつ、他社との接触は極力電話のみですむ仕事だとはいえしっかりと業務を進めてくれていた。だれもが大丈夫だろうと思っていた。けど、事態は変わっていった。

ある朝、トオルが出勤しデスク前で業務の準備を進めているときふと時計を見た。

遅刻しそうなので時計を見ながら慌てて走るサラリーマン

「もう9時20分か、、、始業時間まで後10分だな。今日は朝から会議だから気合を入れないとな。ん?あれ?」

ふと見るとアツシのデスクは人がいない。アツシは真面目な社員でいつも始業30分前には会社に来ているのに今日に限ってアツシは出社していなかった。「まさか、、、、」頭の中はアツシが調子を崩したのではないだろうか?という思考で一杯になり、スマートフォンに手を伸ばした。

それと同時にマキコが話しかけてきた。

「アツシ君が出社していないんです。心配になって連絡取ろうと思ったんですけど電話つながらなくて、、、、LINEも送ったんですけど返信がないんです。既読にもならないし、、、、」

「いつくらいに連絡したんだ?」冷静を装いながらも焦りがつのるトオル。

「電話は10分前くらいにしました。LINEは電話がつながらないのがわかってから2分おきくらいに送っていますが、、、」

「う~~~ん」とスマートフォンをみるトオル。時刻は9時25分を表示していた。

「いやでも、電車が止まっているだけかもしれませんし、、、あまり慌てる必要もないかも、、、あっ!!アツシ!!!!」

ドアを勢いよく開けて、肩で息をしながら入ってくるアツシの姿が目に入った!一同がびっくりしてアツシを見つめる。それに気づいてアツシは「すいません。焦っていたもので、、、」と謝った。

マキコもトオルも安どの表情を浮かべた。そしてマキコはアツシに話しかけた。

「もぉ心配したんだよ。くるのいつもより遅いじゃない。なんかあったの?」

「えっ、あぁ、ちょっと、電車に乗り遅れてさ、、、、でも、始業前には間に合っただろ?」

「そうだけど、LINEくらい返事くれてもいいじゃない!!」

「ごめんごめん、走ってたから気づかなかったよ、、、、」

他愛もない話をしているマキコとアツシをみてトオルはさらに安心した。「なんだ、体調を崩したわけではなかったのか、、、」

でも、それは体調悪化の前兆だったのはアツシを含め全員が気づいていなかった。

ギリギリが増えてくる

この日からアツシは始業ギリギリに出社するようになる。いつも肩で息をしていてツラそうだ。やはり体調が悪いのだろうかと心配して話しかけても「いや、なんでもありません」と答えるアツシ。トオルも初めての復職経験だからどうしていいかわからなかった。

昼休みもおにぎりを一つだけ食べて後はデスクで突っ伏して寝ているので、疲れているのは誰の目から見えてわかる。

しょうがなく産業医に相談しに行った。産業医からは「本人が大丈夫といっているので判断できませんが、やはり体調は悪くなっているような気が私もします。できれば業務内容を軽くすることはできませんか?できるのであれば三者面談で体調が悪そうに見えるから業務負荷をさげる処置をしたいと相談することができますが。」と言われた。

「軽くするかぁ、、、、そうですかぁ、、、日常業務はあまり制限できるものでもありませんのでルーティンワークに戻ってもらうことはできます。それでもいいですかね?」

「そちらの部署が問題ないならルーティンワークに戻すのがいいかもしれませんね」

「わかりました。では三者面談の日をアツシと相談することにします」

三者面談

三者面談くらい簡単に了承してくれると思っていたトオルはアツシの意外な行動に驚くことになる。なぜなら、アツシは「しなくて大丈夫です」といいはったからだ。

「何も問題ない。三者面談する必要は何もありません。心配かけて申し訳ありませんが問題はないんです。」と言い続けるアツシの姿に戸惑いながらも「いや、ただ話すだけだからさ、、、今後の方針もあるし、、問題ないなら拒否する必要もないだろう、、、」と、しどろもどろの説得をしてしまった。

結果、アツシは三者面談を了承したが結果それが良くなかった。

三者面談では産業医から調子が悪いように感じるので業務負荷をさげるためにルーティンワークに戻すむねを淡々と伝えられた。それを聞いたアツシは悔しそうな表情をうかべ「やっぱりそうですか、、、」と拳を強く握っていた。どうやら業務負荷をさげられるのが何よりもツラかったようだ。

説得で「ただ話すだけ」「今後の方針」といったことがアツシには嫌だったようで、三者面談の後で「業務負荷をさげる面談でしたら、今後はそういってもらえますか」と言われてしまった。確かにはっきりと伝えるべきだったかもしれない。でも、トオルは少しカチンときた。なぜならアツシのことを気遣ってやったことだったからだ。そんなこともあり「わかった」と冷たく答えるだけで終わってしまった。

調子がどんどん悪くなる

業務負荷をさげればアツシが元気になるだろうと思っていたトオル。でも、残念ながらその考えはあたらずアツシの体調は悪くなっていった。朝ギリギリに出社するだけにとどまらず、ちょこちょこ遅刻するようになってしまったのだ。

遅刻の理由を聞いてもただただ謝るアツシ。体調が悪くなっているのではないか?といっても、「悪くはなっていますが問題ない範囲です」との一点張りだった。だが、これ以上悪化したら復職失敗になる可能性が高い。そうなればアツシのためにも良くないと思い、トオルはルーティンワークの量を減らすことにした。

222問題は、どうアツシに伝えるかだ、、、と悩むトオル。しかし、前回のこともあるのではっきりと伝えることに決めた。

アツシを会議室に呼び、椅子に座らせた。扉を閉めて、小走りでアツシの隣に座る。そして間髪入れずに切り出した。

「お前の体調が悪くなっているように思う。だから、ルーティンワーク業務を減らすことにする」

突然伝えられた内容に呆気にとられるアツシ。だが、内容を理解するとすぐさま反論した。

「課長!!僕は大丈夫です。確かに体調が悪いのは認めますが、ルーティンワークのせいではありません。ですから減らさないでください。減らされたら業務時間が余ります」

「余ったらその時間は休憩していてもいいし、仕事の勉強をしていてもいい。定時まで時間をつぶしていていいんだよ。悪い話ではないはずだ」

「課長!!お願いです。今のままで大丈夫ですから。今ままでお願いします」

「だめだ、明日から業務量は減らす。これは決定だ」

「、、、、、、、、、」

「わかったな?業務命令だからな」

「、、、、、、、、はい」

話し合いはたったの5分で終了。アツシの後ろ姿からは肩がさがり頭がうなだれているのがわかった。でも、「これでいいんだと」トオルは自分に言い聞かせた。だって、働かなくていいといっているのにダメな訳があるはずないと思ったからだ。

雨の日の欠勤

ルーティンワークの量を少なくした日。アツシの言う通り定時前に仕事が片付いてしまったアツシは私のところに来た。

「仕事が終わりました。次の仕事をくださいませんか?」

そういうアツシに「ダメだ、休んでいろ。本を読ん出ていもいいぞ。」と冷たく返答した。そうしないと自分の決心がブレてしまいそうだったからだ。

「わかりました」そう答えるアツシは納得していなかったようだ。

あくる日、マキコから変な話をきいた。

「課長、アツシ君定時近くになると手伝える仕事がないか聞きに来るんです。私だけじゃなくてミンナに聞いて回っているんです。課長の方針通り今のところ誰も仕事を振ってはいませんが、しつこくお願いされて困っている人もいるんです。」

「あいつ、そんなことをしているのか」

「でも、アツシ君の気持ちもわからなくはないんですよねぇ。周りが働いているのに一人だけ遊んでいるのはちょっと気が引けるじゃないですか。ねぇ課長、簡単な仕事なら手伝ってもらってもいいですかね?本人も働きたいって言ってますし」

「だめだ!!現に、まだ調子が良くなっていないんだから負荷をあげるわけにはいかない」

「確かに、、、、、体調は悪そうですけどね、、、、わかりました、、、」

マキコはシュンと落ち込みながら私から離れていった。

「働かなくていいと上司が言っているのに聞きもしない。誰のために決めたと思っているんだ。。。まったく」トオルは内心いらだっていた。自分の計らいや心配が全く届いていないように感じたからだ。

「よし、明日アツシと話そうか、、、、」とココロに決めるトオルであった。

天気の悪い中どす黒くひっそりさく紫陽花

お互いの気持ちのすれ違い

次の日、トオルは早速アツシを呼びだした。会議室だと落ち着けないかと思い、休憩室に呼んだ。アツシは何の話をされるのかわからなくてオドオドしながら現れた。買った缶コーヒーを渡すと、ハニカミながら受け取った。

驚きまくっている若手サラリーマン「なぁ、最近どうだ調子は?」

「いやぁ、、、、、、、普通です、、、はい」

「本当に普通なのか?」と笑いながらトオルがききなおすとアツシは真面目な顔をしながら「本当ですよ!!」と強めに言い返してきた。

「、、、、、そうかぁ、、、俺にはそうは見えないんだけどなぁ」とトオルが返すとアツシは黙ったままだった。

「そうえばなぁ、アツシ。お前最近、周りの人に仕事くれって言いまわっているらしいじゃないか。あれはダメだぞ~」

「えっ!?何で知っているんですか!?」

「俺は何でも知っているんだよ」と意味不明なことをいいながら笑うトオル。自分でもキモイなと思いながら話をつづけた。

「アツシの体調が良くなるまで業務負荷はあげないよ。これは決めたことなんだ。他の奴も俺の指示に従っているから仕事はくれないぞ」

「、、、、」うつむいているアツシ。

「まずは体調を整えることを先に考えるんだ。わかったな」といいアツシの肩をポンポンと叩き、その場を離れようとするとアツシは慌ててお願いをしてきた。

「仕事があった方が体調はいいんです。業務時間中にやることがなくなると困るんです。やることがないならしょうがないですが、やることはありますよね。お願いします。仕事フってもらえませんか?」

「んなこと信じられるか。仕事が増えた方が悪化するだろ。ダメだ。仕事は減らす。」落ち込み涙を流す若手サラリーマン

「おねがいします、お願いします」必死な顔でトオルの両腕をつかみながらお願いをするアツシであったが思いは届かなかった。

「だめだ、言うことをきけ。お前が再休職すると困るんだ!」

その言葉を聞き「はっ」とした顔なったアツシは、すぐにうつむいて「すいませんでした、、、、」といってその場を走り去っていった。

「どうしたら、伝わるんだよ、、、、、お前の復職は誰よりも俺が成功させたいんだ。」何をいってもアツシに伝わらない無力感にトオルは拳を強く握るしかなかった。

突然の欠勤

それから数日間、アツシは淡々と業務をこなしていた。やはりギリギリな出社に変わりはなく体調も上向きにもなっていないようだが、悪化もしていないように見えた。

他のものに仕事をくれとも言わなくなり、トオルは少し安心していた。そんな矢先にアツシが無断欠勤をした。

いつもギリギリの出社だったため始業のチャイムが鳴るまでアツシは出社するものだと思っていた。想定外の現象にトオルは混乱していた。ただ、アツシのことは心配でも今日も仕事をしなければならない。しどろもどろになりながらも朝礼を済ませた。

まずは落ち着こうと椅子に座り、考え込むトオル。そこへマキコがやってきた。

「課長、アツシから電話ありましたか?」心配そうな顔で聞いてくる。

「いや、連絡ないんだ。今までギリギリだったけど始業前には会社に来ていたんだけどな、、、どうしようか、、」

「わたし、午前中すこし余裕があるんです。何度か電話してみますね。課長は大事な取引先にいく予定ですよね?進捗あったら連絡しますから」

マキコはイロイロ気が利く社員だ。

「ここは任せて仕事に集中しよう。それに、俺がなんども連絡するより同期のマキコの方がアツシも気が楽かもしれない」そう考えたトオルはマキコに連絡を依頼し会社を出た。

連絡つくも安心できない一日

取引先との打ち合わせが長引き気づけば11時。なんどもアツシのことが気になったが取引先でスマホを確認するわけにもいかなかった。外に出ると同時にスマホを確認する。するとマキコから連絡が入っていた。

「アツシと連絡がつきました。今日は倦怠感が強く出社できなかったそうです。連絡せずに休んですいませんといっていました。後で課長から連絡行くはずだからって伝えておきました。」

よかった。アツシは連絡がとれる状態だったか。ともあれ、一度顔を見といた方がいいかな。と思いながら「とりあえず電話が先か」と思い連絡をすることにした。

プルルルル、プルルルルル、ガチャッ!

「課長、すいませんでした」元気のない声で電話に出るアツシがいた。あまり長話をさせるのも問題なので要点だけ伝えた。体調のこと、明日出社できそうかということ、今日会いたいということ。簡潔に話した。

結果、明日も出社できなかったら会って話したいが、今日は大丈夫ですという話になった。本人が大丈夫というのに押しかけるのも問題かと思いそこは了解し「待っているからな」と連絡した。

出社できず心配がMAXへ

次の日の朝、始業5分前、トオルのスマホが鳴った。連絡先はアツシだった。すぐ電話に出たらアツシの元気のない声が聞こえた。

「すいません。。。今日も、、、いけそうにないです。すいません。でも、午後からいけるかもしれませんので休むかどうかはまだ待っていただけますか?」

やはり調子は悪化していたようだ。休めというか、待っているというか迷ったが、アツシが頑張っているのを無下に断るのはダメだと思い「わかった。待っているが無理はするなよ」と伝え電話を切った。

すぐにマキコがデスクの前に来た。

「アツシからですか?」心配している表情だ。

「あぁ、午後から来れるかもしれないから来れたら来るといっていた。」

「そうですか、、、、体調悪いんですね。大丈夫でしょうか、、、、」

「う、、、、、ん、わからんが本人がまだ踏ん張れるかもしれないといっているんだ。大丈夫なのだろう」

「そうですね。あっ始業のチャイム!」

バタバタバタバタ

チャイムと同時にマキコは自分のデスクまで走っていった。マキコにはあぁいったが内心心配でしょうがないトオルであった。

トオルが心配した通り、アツシ出社できなかった。やはり体調が悪くて外に出れるどころか布団から出れないようだ。布団からでれないなら食事もとれないだろうと思い、アツシの自宅へいくことにした。

照明が怪しく光る夜の街

体調が戻らず休む

アツシの自宅にいった。案の定、アツシはしんどそうな顔をしていた。何か食べたのか聞くと食べたか食べてないかを答えずに「大丈夫です」しか答えなかった。やはり何も食べていないようだ。

とりあえず部屋に入る前にコンビニにいくことにした。「俺の飯を買うついでだからお前の分も買ってやる」と無理やり言って何を食べたいかきいたがアツシは答えなかった。なので「米かパンか麺か?」とだけきいたら、やっとアツシが「米で、、、、お願いします」といった。

コンビニについて米系の食べ物を探す。

「あいつ好き嫌いあったかな、、、これ食えなかったらどうしようか、、、、、体調悪い時は消化の良いものがいいのか?、、、、揚げ物はダメか、、、、」

「ん~~~~~、消化の良いものなんて米系でないぞ、、、、、どうしようか、、、、」

悩んでいると後ろから聞き覚えのある声で話しかけられた。

「課長、悩みごとですか?」かわいい笑顔を浮かべながら話しかける女性は一瞬だれかわからなかったが、数秒考えてマキコだとわかった。

「マキコか!?」驚くトオルに笑いながらマキコが言う。

「誰だと思ったんですか、アハハハハ」明るいマキコに多少救われた気がしてトオルも笑った。

「いや、私服姿は見たことなかったからな、、、会社が制服だしさ、髪も普段はおろしているんだな。雰囲気違いすぎて最初わからなかったよ」とイロイロと言い訳したトオルであった。

「アツシの飯を買いに来たんだがどれを選べばいいかわからなくてな、、、米系がいいといったんだが、消化よさそうなものなくてな、、、」

「えっ!?米で消化の良いものですか?そりゃおかゆしかないですよ~」

「おかゆかぁ、、、、おかゆは食わんだろうなぁ、、、、」ともっと悩みだすと

「たぶん消化よくなくてもいいと思いますよ。消化がいいものがいいって言ったんですか?」

「えっ?いや、調子悪い時は消化がいいものかなと思っただけなんだけどな、、、」と苦笑いして答えるトオル。

「消化の良いものが食べたかったら米って言わないと思うんで大丈夫です。って、これからアツシの家にいくんですか?」

「そうか、ん?そうだ、あいつ何も食ってなさそうだからな、飯を買いに来たんだ。マキコはどうしたんだ?」

「いや、私も気になってアツシの家にいこうと思ったんです。手ぶらじゃなんだと思ってプリンでも買っていこうかとコンビニ入ったら課長がすごい顔してお弁当見てるから面白くて話しかけちゃいました。アハハ。私も一緒にいっていいですか?」

「優しい奴だなお前は。おぅ!いいぞ、一緒に来いよ。」

「じゃぁ私の欲しいものも一緒に買ってくださいねぇ!!」と無邪気にカフェオレやサンドイッチをイロイロ入れだす。

「おいおい!勘弁してくれよ!!給料前なんだぞ!」と怒るトオルの言葉を聞かずにケラケラわらうマキコだった。

自宅でのヒアリング

アツシの自宅に戻るとマキコも一緒なことにアツシは驚いていた。「どうしたの。。。?」と小さくつぶやくアツシにマキコは「私も心配してたんだぞー」とアツシの頭をこづく。

少し場の空気が和んでよかったと思うトオルであった。

それから、たわいもない話をしてご飯を食べ楽しい時間を三人で過ごした。時間にして1時間ほどであろうか、アツシはあまり元気がなくて苦笑いしかしていなかったがマキコが明るくふるまってくれたので楽しい空気が流れた。

その後、体調の話、明日はこれそうか、という話をした。アツシは「すいません。たぶん大丈夫だと思いますが、わかりません」とボソボソと答えた。

「わかった。休んでもいいが、その時は今日みたく連絡をくれ。いいな」というと「わかりました」と答えた。

その日はその場で解散となったが、最寄り駅までマキコとアツシのことを話した。

「おそらく、、、、かなり体調悪いんだろうな。たぶん明日は無理かもな」というトオルにマキコが「そうですね、、、」と小さく答えた。

再休職

次の日アツシは出社した。すごい顔色でほとんどしゃべれない状態であった。その後もなんどか会社に出社したものの休みが多くなり産業医と面談することとなった。

産業医と主治医とが話し合いした結果、やはり再休職する必要があるという結論になりアツシは休養することとなった。アツシはまた「すいません」と何度も言っていた。トオルは「気にせず、元気になるのを待っている」と明るく伝えた。

だが、トオルも悔しさで一杯だった。絶対に復職させてやろうと思ったのに失敗させてしまった。なにが悪かったのかわからない。仕事も調整した。タイミングが悪かったのだろうか、、、、

トオルは無力感を感じながらどうしていいかわからないまま途方に暮れるしかなかった。

川べりを照らす街の光が眩しい夜の日常

いったいどこが悪くて再休職したのか?

キーポイントは複数個あります。ですが、それがすべてのうつ病患者に当てはまるかと言われればそうではありません。当てはまる人もいれば当てはまらない人もいる。これが事実です。

うつ病といわれる人々はなったことない人達には一括りににされることが多いです。ですが、実際は個人個人で対応の仕方は若干異なります。仕事の負荷は下げた方がいいですが、下げない方がいいこともありますし、働かなくていいということが患者にとって前向きにとらえられないこともあります。

本人とよく話し合い、理解しあい、意思の疎通ができていないと復職するのは難しいですね。また、うつ病患者本人も焦りの扱い方や自分の状態の把握の仕方をよく知っておかなければ復職は失敗しやすいでしょう。

具体的にどこがまずかったのかは今後違う記事にしますので少々お待ちください。

まとめ:正解はない。何度も読んで色んな人の考えを聞こう

うつ病患者が復職を成功する方法はセオリーはあっても正解はありません。王道がすべてではないのです。ちょっとした些細なことが原因で失敗することもあれば、大きな勘違いによって失敗することもあるんです。

じゃぁどうすればいいんだよ!って声が聞こえてきそうですね。でも、その答えは私たち全員で見つけるしかありません。たくさんの人と話し合い意見を出してもらい、どうしたらいいのかを考える。これが大事です。

私は関係ないとか、こうすれば治るはずなんだと考えることを放棄する人はうまくいきません。もちろん周りも同じです。全員が当事者意識をもちイロイロな意見を出し合い前に進まなければ復職は成功しないのです。

それを忘れないでください。今回の小説をみんなで読んで、どうすればよかったか考えてみてくださいね。

タイトルとURLをコピーしました