うつ病を治療するには薬物療法と心理療法があります。この心理療法の中で昨今大きな注目を浴びているのが「認知行動療法」です。
この「認知行動療法」はうつ病の辛い症状を緩和させ良い方向に向かわせる力が大きいと言われています。また、大きな特徴として自分で実践していくことが出来るという点があります。
ここでは、認知行動療法についての基本をご紹介しましょう。
認知行動療法とは
1980年代ごろより注目を集めてきた「認知行動療法」。心理療法での一つですが、実は決まった形はありません。認知行動療法は、一般的には次のように定義されています。
「認知行動療法は、一般に次のように定義されています。「これまで実証的にその効果が確認されている行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせて用いることによって、問題の改善を図ろうとする治療アプローチの総称」(坂野、1999;句点は筆者)
引用元:ココロが軽くなるエクササイズ 越川房子 監修 出版社:東京書籍
このように認知的技法と行動的技法で有効な物をそれぞれ有効に使いながらクライアントの心の負担や葛藤、苦しんでいる部分を軽くしていきますよっていう心理療法になります。
これらの技法は数十種類と多彩で様々なシチュエーションに活用でき、かつ、抑うつや不安の対応に非常に効果的なため今ではうつ病治療の最前線で積極的に使われているんですね。
認知的技法とは
ここで出てくる「認知的技法」という言葉は心理学になじみがないとわからないですよね。ですが、そんなに難しいことではありませんので拒否反応を示さないでくださいね。
人の感情や考えなどを心理学では「認知」と呼びます。この認知を知り、適切的に修正していく方法が「認知的技法」と呼ばれているんですね。
認知について
例えば、秋になり寒くなってきた時に紅葉した景色を見てAさんは「とても素敵な色になったわね」と心暖かな気分になります。この時のAさんの認知は「紅葉はステキ」といえます、
それに対し、Bさんは「あぁこんなに紅葉が進んでしまった。もうすぐ冬になる。寒いのは嫌いなのよ」と嫌な気分になったとします。この時の認知は「紅葉し秋が来たということは冬がすぐに来る」ですね。さらに「寒いのは嫌い」という認知が主となります。
気分的に穏やか、かつ、健やかに過ごせるのはAさんの認知です。もしBさんの「寒いのが嫌い」で苦しい思いをしている場合はAさんの認知になる様に修正できるといいですよね。
そういう風に心が健やかに、かつ、苦しめないよう修正していくのが認知的技法というものです。ただ、注意してほしいのは「寒いのが嫌い」が絶対にダメな認知ではないということです。
基本的に修正していくのは「その認知によってクライアント本人が苦しんでいる」ものだけですので注意してくださいね。
行動的技法とは
さて、行動的技法について説明していきましょう。こちらは心理学になじみがなくても理解しやすい部分です。言葉のとおり行動をとおして心を軽くしたり明るくしたりする方法ですね。
例えば、なんか悩んで辛い時に「軽くウォーキングをして新鮮な空気を思いっきり吸って綺麗な景色をみたら悩みがふっとんじゃった」なんて経験はありませんか?
実は、これが行動的技法になるんです。実際に行動をおこし辛い症状を緩和させる。これが行動的技法と言われます。
認知行動療法の基本理論
このように、認知行動療法とは認知的技法と行動的技法を合わせて行う心理療法です。ただ、基本理論という3つの理論が根底にありますので、それぞれ説明しますね。
ABC理論
まずは、このABC理論です。これは論理情動行動療法の創始者であるエリス(Elis,A)さんが考えた理論なんですが、出来事と結果の間には「信念や認知」が影響しているという理論です。簡単に図に書くとこんな感じですね。
ここで出来事はActivating event、信念はBelief、結果はConsequenceといい、この三つでABC理論と呼ぶんです。ある出来事は信念や認知によって解釈され結果として考えや行動がおきると言った理論です。
先ほども書きましたが、紅葉という出来事に対して「紅葉は情緒的でステキ」という信念や認知があると結果として「紅葉を楽しむ」や「紅葉によって癒される」といった結果が生まれます。
これは良い方向の結果ですが、これがマイナスの結果を生むようになると体に悪影響を及ぼし抑うつ状態になっていきます。そうならないように信念や認知を正しい方向に向かわせるのが必要となります。
ムード一致効果
こちらはABC理論と逆の理論になります。簡単に言えば気分が悪ければ考え方も悪くなるというものですね。
たとえば、大事にしていたペットがなくなってしまい感情的に沈んでいるとしましょう。そうすると、
- 今まで楽しんでいたことが全然楽しめなくなる。
- 結果、もう二度と楽しい趣味は出来ないんだ
という思考が出てきます。
さらに、感情が落ちているため悲観的なことに沢山目が行きます。
こういう時に大事な友達が約束を破ったりすると「裏切られた」という気持ちが強く出てより一層落ち込んでしまいます。友人は「たまたま」約束を破ってしまっただけなのですが「もう友人も離れていく」と考えてしまうのですね。
このように感情が悲観的な状態だと、出来事全てが悲観的に見えてくるばかりでなく、悲観的な出来事ばかり目につくようになるんですね。
自分の感情状態を知ることが大事
体調を回復させるためには「今現在の自分の状態を把握する」ことが大事になります。悲観的な感情を持っているから全てが悲観的に見えたり、悲観的なことだけ注目したりしているということがわかれば、意図的にポジティブな出来事を見つけるようにできます。
また、リフレッシュなどをして気分的に元気になると、楽しい出来事を見つけやすくなったりもします。このように気分をあげて認知を明るい方法に変えていくことで辛い気持ちを軽減させることが出来るのです。
抑うつ的処理活性仮説
そして、3つ目の基礎理論です。これはティーズデールさんという人が「うつ病の発症のメカニズム」を説明した仮説のことを言います。簡単に言ってしまえば「負の連鎖」「負のスパイラル」と言われるものです。図にするとこんな感じですね。
最初に起きたストレス(出来事)によって、軽い抑うつ気分になったとします。そうすることで感情的に沈んでしまいますよね。そうなると、周りに出来事がさらに抑うつ的に感じられてしまうのです。これが「2次の抑うつ」と呼ばれます。その2次の抑うつに対してマイナスの認知が働くと抑うつ気分はどんどん悪化します。
抑うつ気分が悪化すると2次の抑うつの発生が増えていきますので、どんどん気分が沈んでしまい病的な状態になってしまうのです。そのため、この負のスパイラルに入る前に悪化の進行をとめることで「うつ病」になるのを防ぐんですね。
悪化するパターンを簡単に箇条書きにすると
- ストレスフルな出来事がおきる
- 抑うつ状態になる
- 感情が不安定になり、落ち込む
- 他の出来事も悪く見える
- それにより、抑うつが増す
- 感情が、さらに落ち込む
- 周りがさらに悪く見える
- 結果、どんどん抑うつが増す
- 6に戻り延々に繰り返す
このような状態といえますね。もうドツボにはまっているのがわかると思います。これを防ぐために
- ストレスフルな出来事が起きる
- 抑うつ状態になる
- 感情が不安定になり、落ち込む
- 認知行動療法をして、落ち込みを止める。
- 必要以上に他のことを悲観的に考えない
- ストレスに対処して回復
という流れに変えていくのが重要なんです。この理論を知っておけば、いかに最初の段階で治療を施した方が良いかがわかりますよね。
実践的な技法
このように認知行動療法は3つの基本理論でなりたっており、それぞれの技法が効果的に発揮されるようになっております。では、代表的な技法について説明していきましょう。
セルフモニタリング
まず代表的な技法のセルフモニタリングから説明しましょう。これは、ABC理論やムード一致効果などの理論で説明された
- 出来事
- 認知
- 結果
の関係を客観的に確認できるものとなります。
きっちりとやるためには思考記録表と呼ばれる表を使用します。ですが、それでは少しわかりずらいので今回は簡単な方法を書いていくこととしましょう
手順
手順は以下のようになります。
- ストレスを感じた出来事を一つ書き出します。
- 書き出した出来事に直面した時に、あなたが思った考え(思考)やイメージを書き出します。
(これを自動思考といいます)
そして、複数だした自動思考に対する強さを0~100%で記入します。自動思考ごとにMAX100%で記入します。 - この自動思考が出た時の感情を羅列します。
(怒り、悲しみ、苦しみなど短い感情表現の言葉で表現します。)
この感情にも強さを0~100%で記入します。こちらも感情ごとにMAX100%とします。 - ここで出てきた自動思考に反する、もしくは、苦しみを軽減できる思考(合理的思考)を書き出します。
例えば、「自分は馬鹿で存在価値が無い」と自動思考がでたとしたら「確かにバカかもしれないが存在価値がないわけではない」という思考を出すわけです。 - 4で上げた合理的思考を適応したとしたら自分の感情はどういうものが出るかを書き出します。
これら全てを書き出し客観的にみることが重要です。それによって、自分の考えが凄く偏っている場合はすぐに気づけるんですね。また、視野を広げ、そんなにつらい考え方をしなくても「こういう考え方もある」と思えるようになるんです。
これができれば、同じようなことが起こった時に自分を苛め抜くような自動思考をとめることができあす。結果、気分の落ち込みをとめることができるようになるのです。
具体例(モン介の場合)
これだけだと、ちょっとわかりずらいので私の例を出してセルフモニタリングをやってみましょう。
ストレス過多な出来事
まずは、強いストレスを感じた出来事を書き出します。
- 仕事のミスをしてしまい、鬼上司に1時間凄い剣幕で怒られた。
これが私が辛い思いをしたストレスです。
自動思考の書き出し
この状態の時に私の中で噴出した自動思考を書き出すと
- こんな単純ミスをして俺はクズだな(80%)
- こんなミスをした鬼上司は俺が大っ嫌いに違いない(40%)
- 俺の評価はだだ下がりだ。もう挽回できない(70%)
- 俺は無能だ(80%)
- 俺はこれからも一生こういう単純ミスをするんだろうな(50%)
- グダグダとうるせぇな(70%)
こんな感じですね。もう自己否定の嵐ですね。でも、イライラも出てきていますよね。こういう相反する思考もしっかりと書いていきましょう。
感情の整理
では、この時の感情を書き出していきましょう
- 悲しみ:80%
- 絶望:90%
- 怒り:70%
という感じです。感情というのは短い文で2~3語で表現できるものが当てはまります。他には負の感情としては苦しみ、恐怖、おそれ、嫌悪、驚き、怨み、勇気などがあります。
合理的思考の検討
さて、次はこの自動思考に対する反証や合理的な思考を出していきましょう。
- たまたま単純ミスをしただけで、俺はそこまでクズではない
- 鬼上司は怒ってくれているので嫌いかもしれないけど見放していない。
- 今回の事で評価は下がったかもしれないが、挽回できるチャンスはまだまだある。
- 他にはしっかりできた仕事もある
- 今回の失敗を復習し活かせば同じ単純ミスはしない
- 俺のためにしっかりと怒ってくれている。俺の成長を期待してくれている
というような感じですね。ちょっとポジティブシンキングのようですが、もちろんそうでなくてもOKです。自動思考の時と違う視点で考えれるのが一番いいですね。
自動思考というのは偏ったり硬くなったりしやすいものです。そして、凝り固まるとストレスに柔軟に対処できなくなります。ですから、自動思考が柔軟になるよう多方面からの視点を入れるのが重要です。
感情変化の確認
では、合理的思考をよみなおしてみてください。そして、実際に現場で合理的思考に自分できづけていたら、自分の感情はどう変化するか考えてみましょう。
イメージがまとまったら書いてみてください。私の場合は、こんな感じです。
- 悲しみ:50%
- 絶望:30%
- 怒り:40%
- 希望:30%
- 勇気:40%
負の感情が軽減されたのがわかりますよね。また、前向きな感情が芽生えてきていますね。
- また頑張ろう
- 挽回してやろう
という感情によって自分を苦しめない方向に変化が生まれたんですね。
今回の例題のように、大きな変化が生まれることは珍しいです。特に、認知行動療法を習得したての時は、さほど変化を感じないことがあります。でも、あきらめず何度もやってみてください。そうすることで少しずつ固まった自動思考を溶かすことができ自分を苦しめる呪縛から助け出せるようになります。
何度も繰り返すことでストレス耐性があがります。諦めずチャレンジしてみてくださいね。
うまくできないとき(追記:2017年3月21日)
セルフモニタリングは自分と向き合う技法です。思考や感情に向き合うとかなり疲労します。ですから、ある程度回復していないとできないものなんですよね。起き上がることもできないほど重症の場合は、薬物量を続けながら寝るようにするのが大事です。そして、回復してから取り組んでみましょう。
回復途中の場合は、周りの人の助力をえながら進んでみましょう。反証を書く時などは自分ではいい案が思い浮かばないことがあります。そういうときは、信頼している人の意見を効くと新しい発見を見つけられるかもしれません。その他に
- 自分の理想の人ならどう考えるだろうか?
- 真逆の考え方を想像してみる
- 漫画の主人公なら、どう考えるか?
という風に考えると反証や合理的な思考は書きやすくなります。ぜひ、使ってみてくださいね。
筋弛緩法
これはアメリカのジェイコブソン博士という人が創案したものです。ストレス過多になると人の体には無駄な力が入るようになって、リラックスできないようになっていきます。そうなると、ストレスがどんどん積もっていって疲労してしまいます。
それを防ぐために骨格筋の緊張を緩め、心と体がリラックスできる状態を作り出そうとする技法です。
基本方法
やり方は簡単で、
- 力こぶしを作ります。
- 手を握りながら前進に力をいれます
- そのまま、7秒くらいキープします。
- 7病後、一気に脱力してください。
- そして、筋肉を弛緩させます。
これだけです。簡単ですよね。
<注意>
立ちながらやると倒れてしまう可能性があります。ですから、最初は座位か横になってやってるのが安全です。いきなり立ってやるのはやめましょう。
難しい時は手から
全身に力を入れるのができない場合は、まず手からやりましょう。やり方はもっと簡単になります。
- 握り拳をつくります
- 7~8割くらいから10割くらいの力でギュッと握ります
- 7秒間キープです。数を数えましょう。
- 7秒経過したら一気に手の力を解放してください。
- 脱力した状態で、そのまま10秒すごします。
なんだかほぐれていないような気がするなら、もう一度手を握り脱力をします。
手から順々にやり最後は全身
慣れてきたら、徐々に全身に力を入れてみましょう。順番は
- 両手
- 両腕
- 肩
- つま先
- 両足
- 顔
がいいでしょう。それぞれ別にやっても良いですし、できるようになった部分と加算して同時にやっていくのでもいいです。
全身が脱力できる方がリラックス効果は高めです。ですが、手だけでも十分効果があります。ですから、できるところまでで定期的にやるようにしてくださいね。
この方法を定期的にすると体が硬直したり無駄な力を入れなくて済むようになります。結果、ストレスによる疲労の促進を止めることができるんですね。簡単、かつ、短時間ですぐにできる技法なので是非習得してください。
コーピング
次にご紹介するのはコーピングというものです。この呼び方はあまり聞かないと思いますが、簡単に言えば気分転換やリフレッシュ方法のことを指します。
あなたはある行動をすることで気分がスカッとしたり清々しい気分になった経験はありませんか?それを意図的に実施しストレスを発散させるのがコーピングという技法になります。
- サイクリング
- ウォーキング
- ランニング
- 釣り
- ヨガ
- ロッククライミング
など体を動かすのは血流も良くなるためとても効果的です。
この他に
- 感動する小説を読む
- アロマを焚いてみる
- 紅茶などのティーを楽しむ
- 癒される音楽を聴く
という文科系のものも良いですよ。
自分がどんな時に、どのような行動をするとリフレッシュできるかを記録を付けておき、辛い時に実施するのがいいですね。また、時にはリフレッシュ方法を探すために今までやったことのない行動を取るのも重要です。
今まで登山が嫌いだった人が山頂の素晴らしい景色を見てから虜になったなんて話もあります。コーピング方法は沢山あるほど有効です。自分の知らない世界をドンドン開拓してリフレッシュ方法を確立していきましょう。
マインドフルネス
そして、最後にご紹介するのがマインドフルネスですね。これは「今この状態をに集中し受け入れる」というものです。昨今、色々な場所で取り上げられている技法です。グーグルなどで採用されており社員の指揮UPやパフォーマンス向上で一役買っています。