うつ病の症状で仕事に支障がでる「思考力低下」とはどんなものか

人を助けている人へ
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うつ病の話をきくと、よくこんなことを聞くと思います。

  • 新聞がよめなくなった
  • 相手のはなしが理解できなくなった
  • 何をすればいいかわからなくなる
  • 日常でかんたんにできていたことができなくなる

うつ病をわずらったことがない人は全然理解できない話でしょう。そんな理解しずらい症状を私の経験を交えながらご説明しましょう。うつ病患者の理解を深めるためや、己の症状の理解を深めるための一助となれば幸いです。

うつ病の症状である思考力低下とはどれくらいのものなのか

うつ病を患うと実際にどれくらい低下するものなのか。これを一番知りたいと思います。ですが、残念ながら数値化できるものでもない上に、個人差があるものなのでどれくらい低下するとは言えません。ただ、私をふくめ、今まで出会ったうつ病を患った人達をみていると「思考力が低下=何も考えられなくなった=馬鹿になった」というわけではありません。

何気なくできていたことが、「何気なく」できなくなるというのが正しいです。

何もかもできなくなるわけではない

普段なにも気にしなくてもできていたことが突如できなくなる。これは、直面するととても驚く出来事です。朝、新聞を読んでいても文字が頭に入ってこない。なんど目で追っても情報が頭に入ってこないのです。突然のできごとで対処できず、認知症になってしまったかと思うほどでしょう。馬鹿になってしまったと思ってしまうことでしょう。

ですが、実はこの時点で文字を読むことはできます。

とはいうものの、いつもどおり「文字を目で追って情報を吸収すること」はできません。

でも、対策を打たないとよめません。では、どうするのか?実は、音読をするのです。音読をすれば、新聞を読むことはできます。いつもより読むスピードは格段におちます。しかし、音読しながら読み進めると黙読するより頭に情報が入ってくるのです。

そうなんです。新聞を読むことができなくなったのではなく「いつもどおりのスピードで黙読することができなくなった、もしくは、速読できなくなった」というのが正確な表現になります。しかし、普段そんなめんどくさい表現はしないですよね?だから、「新聞がよめなくなった」と考えるわけです。

このように「新聞が読めなくなった」と思うとドツボにはまりだします。(私もそうですし、多くのうつ病患者の方が同じだと思います)

できなくなったという焦りの気持ちから、より多くのことが日常よりできなくなったと感じると思います。しかし、ワンランク落としたやり方であればできることはよく理解しておいてください。

音読ができなくも、書き取りをすれば文章は理解できます。

うつ病の思考力低下で問題になる二つのこと

ここまでの話のとおり、文章を読んだり、ものを認識したりできなくなることはほぼありません。ただ、日常どおり何気なく情報を処理することができなくなることが多くなります。これがうつ病の思考力低下の本質です。

では、何が大きな問題になるのか?それは、スピードと創作力の欠如です。

情報処理スピードの低下

まず、これは仕事をする上では致命的なことになります。作業スピードが劇的におちてしまうからです。

新聞を例にして説明したのでわかると思いますが、情報処理能力のランクを落とさなければ作業はできません。

新聞であれば、速読→黙読→音読→書き取りというように処理スピードと落とさなければなりません。ですが、スピードさえ落とせば「読む」という作業は実行できます。

また、文章の構成を理解するには構図をじっさいに書き出してみることで理解できることでしょう。普段、何を伝えたい文章かを知るために書き出す作業などしないと思います。しかし、実際は無意識に脳内で行っているのです。この処理スピードが遅くなるため書き出す作業が重要となってきます。

ですが、人間に与えられた時間は一日24時間しかありません。結果として一日で処理できる事柄は少なくなります。仕事を分担できる量が激減してしまうこととなります。

得た情報から新しいアウトプットができなくなること

次に問題なのは創作活動ができなくなるということ。仕事の種類にもよりますが、スピードさえ落とせばルーティンワークはこなせる人が多いです。記帳や数字の打ち込みなど、簡単な作業はできます。また、会話もできますし、簡単な手作業もできます。主婦なら料理や家事もできるでしょう。

ただし、既存の情報から新しい情報を生み出すというのはできなくなることが多いです。ここでも、膨大な時間をかけながらやれば実行すればできるのでしょう。しかし、体力のいちじるしい低下を伴ううつ病患者では、その作業に耐えることはできません。

創作的な仕事を主としている人にとって、これは大変なことです。

思考力低下という「うつ病」症状の原因

このような思考スピードの低下はなぜ起きるのか?それは、いまだに解明されてはいません。ですが、もっとも有力とされているのは脳内の伝達物質の低下と言われています。ここでは、有力説の説明と、それ以外の要因を私の経験をとおして説明します。

脳の伝達物質の低下

うつ病のことを勉強されている方は、よくご存じのことでしょう。うつ病は「脳の疾患」と言われています。脳内の伝達物質であるホルモンの分泌の低下、もしくは、受け取る脳神経の異常により分泌量は正常でも信号が伝わらないという現象がおき、脳が正常に動かなくなっているというものです。

その問題となるホルモンの代表格がセロトニン。このほかにも、ノルアドレナリンやエンドルフィンなどが関係しているいわれています。これらの要因により脳が正常に機能せず、通常の情報処理能力が発揮できず思考力が低下すると考えられています。

しかし、厄介なのは脳の伝達物質量を実際に計測できないということ。そのため、どれくらい減っているから、どれくらい思考力が低下しているのかという明確な数値づけはできません。

過労などの物理的疲弊

次いで、問題となるのは物理的な疲弊。働きすぎなど、頑張りすぎることにより体が疲弊しきっている状態です。全力で動きまわり体力が大幅に低下している状態では、どんなことでも作業スピードが落ちてしまいます。

マラソンをした後に、仕事のスケジュールを立てて作業を開始したり、新しい文章を書くことはむずかしいですよね?これと同じことが起きていると考えてください。

うつ病と診断されたときは、無理のし通しで疲労がピークを迎えています。そんな状況では、ろくに頭も回らないのがフツウです。

不安過多や焦りなどの精神的疲弊

そして、いちばん問題なのが精神的な疲弊です。うつ病の症状には不安や焦燥感などココロが穏やかではいられない状態になることがあります。このような状態では作業自体に「集中」することが難しいです。

皿洗いしている最中も仕事のことが気になって上の空。そんな状態で皿洗いしても汚れが落としきれなかったり、食器を落として割ったりします。

仕事をしていたとしても、違う仕事が不安になり今の作業に集中できない。ほかのことが気になっているために今の作業をミスする。そうすると作業時間が増えてほかの作業時間がなくなってしまう。そうなると、ほかの作業を終わらせなければとプレッシャーが募ってあせる気持ちが大きくなり、さらにミスを連発する。

こうならないために、常時わきでてくる負の思考を整理しながら作業をしなくてはいけません。そんな余計なことをしなければいけないため作業スピードは落ちますよね。集中できないため重複する作業もでてくる。

うまくいかなければイライラもつのり、もっと集中できない。そんな負のスパイラルで作業スピードがいちじるしく低下してしまいます。

うつ病によって落ちた思考は元にもどるのか?

ここまで読んでいただいた人は、漠然とではありますが情報処理スピードがおちてイロイロなことが時間的な制約でできなくなるというのを理解してもらえると思います。

そして、ここで大事な疑問が生まれるでしょう。

これは「元に戻る」のか?回復するのか?ということ。

私の経験からすれば「元に戻ります」。私の知り合いで同じ病に苦しんでいた人もほとんどが元に戻っています。新聞も音読しなくても読めますし、創作作業もできるようになります。

具体的にどうすればいいかはうつ病を克服せよ!思考力編1stミッションをご覧ください☆5つのミッションに分けて説明しています!

ただし、いくつか注意点があります。

思考低下から回復に向かう時の注意点

過去の自分の能力を美化しすぎる

実はむかしの自分の作業能力・思考力を事実より良くとらえてしまっている場合があります。もっと速く文字をよめた。もっといいアイディアがたくさん浮かんでいた。

もっと出来ていたはずだ!!

という強い思い。これはうつ病を患った人必ずいだく思考です。何もできなくなったと思った絶望感から以前の能力を比較して実際よりも過大評価してしまうのです。この気持ちに気づかないといつまでたっても「元に戻っていない」と苦しい思考をつづけてしまうことになります。

客観的に自分の思考力をとらえるためにも数値で測れる記録を取りましょう。

たとえばこんなことが記録にはうってつけでしょう

  • タイピングスピードの記録(ゲームなどを使うと楽しみながら記録を確認できます)
  • 百ます計算を使用した四則演算の処理スピードの記録
  • 新聞のコラムの要約を書くスピードの記録
  • ルーティンワークの処理スピードの記録
  • 集中力継続時間の記録

私はタイピングと百ます計算を集中的に実施しました。まず集中力が続かないので病で伏していた時の結果は散々でしたね。もともとタイピングゲームが好きで過去の記録が残っていたのが幸いし、客観的に自分の作業スピードを確認することもできました。

全然ダメ、もっとできたはずと思っていても実はベスト記録をたたき出している時もありました。それほど主観とはあいまいなものです。それに気づいてほしいです。

時間がかかるためボトムアップの目標達成を心がける

記録を取っているとゼンゼン昔の記録に戻らない。もしくは、作業スピードが求めているものまで向上しないジレンマに陥ることがあります。もともと完璧主義が強い傾向にあるため記録をつけると競争心に火がついてしまい頑張りすぎてしまう人が多いと思います。

そうなると日々の治療や努力が苦しいものに変わってしまうでしょう。そのためにも、元に戻るには「時間がかかる」ということを肝に銘じてほしいと思います。

正直、年単位で考えてほしい。耐える期間はかなりあります。悲しい気持ちになると思います。しかし、現時点をスタート地点として少しずつ良くなっていく自分を見つめてほしいのです。

この思考をボトムアップ思考とか積み上げ思考といいます。今を基準とし、できることが増えたということを喜び、楽しむことでいつの間にかすごい作業スピードになっていることがあります。

この逆がトップダウン思考とか、結果至上思考といいます。自分のベストを基準とし、今の自分の至らない部分をつぶしていく方法です。実は、うつ病になる人はトップダウン思考の人が多いです。短期間で結果を出そうと、効率的にダメなところをつぶし、長所を最大限に伸ばす。それぞれのやり方次第で成長スピードは変わりますが、うつ病患者にとってこの思考は良い影響を及ばしません。

今を見つめボトムアップを意識しながらコツコツと記録をのばす方法を選んでほしいと思います。

まとめ:うつ病の思考力低下で最も困るのは「スピード」、大事にしてほしいのは「ボトムアップ」

うつ病の症状で実生活にいちばん打撃を与えるのは「思考力の低下」です。そのなかで症状をとらえる重要なキーワードは「スピード」です。情報処理自体ができなくなったわけではなく、情報処理スピードが落ちたというのが現実です。

なにもできなくなったわけではありません。スピードが落ちてしまっただけなのです。

そして、このスピードは元に戻ります。ですが、時間がかなりかかります。年単位で考えたほうが精神衛生上いいでしょう。そして、元に戻すためには記録を残すことが重要であり、かつ「ボトムアップ思考」でいてください。

ツラい時を基準として、その時の基準より少しでもスピードが上がったことを喜んでください。楽しんでください。そうすれば、気づいた時には過去よりも素晴らしい情報処理スピードが身についてはずですから。

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